デジタルセラピューティクス(デジタル治療)について
病気の治療をする際には、病院で医師は手術や薬の処方を行いますが、これらの代わりにデジタルアプリケーションを使用するという医療技術があります。このような治療をデジタル治療、英語にしてデジタルセラピューティクス Digital Therapeutics(略してDTx)と呼びます。 アプリケーションが使用されるというのはピンと来ないかもしれませんが、スマートフォンの健康管理アプリを想像すると分かりやすいです。ただ、それらのアプリと決定的に異なるのは、「科学的な根拠に基づいている」「医学的に効果があることが実証されている」「認証機関により認証されている」ということです。そのため、一般的な健康管理アプリとは比べ物にならないほど専門的で高機能となっています。(DTxについてはこちらに詳しく記載しています)
デジタル治療で使用するアプリの特徴
日本ではまだデジタル治療アプリは普及はしていませんが、欧米ではすでに多く普及しており、生活習慣病やメンタルヘルス、疼痛の治療など様々な使われ方をしています。あるアプリには次のような機能が備わっており、処方薬とアプリを組み合わせることで、治療効果が上がることが証明されています
・体温や血圧などの健康情報の記録
・感情の記録
・専門コーチの着任
・メッセージやビデオによるチャット機能
・コーチや医師と記録の共有
・医師の遠隔診察
・薬量の調節
・症状を改善するためのプログラム
・治療のモチベーションを保つためのソーシャルネットワーク
・服薬などのアラート機能
禁煙治療のためのデジタル治療アプリ
日本では初めて、2020年6月、CureApp社の「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCO チェッカー 」がデジタル治療アプリとして薬事承認され、同年12月には保険適用となっています。このアプリは名前の通りニコチン依存症を治療する(つまり禁煙支援です)アプリです。
背景として次のような実情があります。実は、日本では通常の外来の診察による禁煙治療は2006年から保険適用で治療ができるようになっています。これは12週間で5回の医師の診察と内服薬の処方を入れたプログラムとなっていますが、次のアンケート(2017年厚労省発表)では、必ずしも高い治療効果あるという結果は得られていないというのが分かります。
<アンケート結果抜粋>
・プログラムの終了率は平均で34.5%となっており、そのうち成功率は89.1%
・プログラムの平均継続回数の平均は3.3回
・プログラムを受けた患者全員のうち、治療終了9か月後の禁煙継続率は27.3%
・プログラムを受けた回数が多いほど禁煙継続率は高く、5回終了患者で47.2%
この結果を見て分かるのは、外来での禁煙治療プログラムを受けても、そもそもこのプログラムを継続できず途中で断念してしまう人が多い(65%以上)。また、プログラムを終了できたとしてもその後禁煙を継続できる(9か月間以上)人は少ない(プログラムを終了した人のうち30%未満)であるということです。さらに、上記アンケートでは、「途中の脱落を防ぐために医師が行っている工夫」として次のように報告されています(抜粋)。
・「途中で禁煙できたとしても、最後まで受診するよう働きかける」(65.0%)
・「5回すべて受診するよう、初診時に必要性を説明したり、全ての診察を予約しておく」(50.7%)
・「受診が途絶えた患者には電話をかけて確認するなど、受診を促す」(27.7%)
これらから分かるのは、治療にあたる医師は、患者の禁煙のモチベーションを上げるために継続して働きかけるような工夫をしないと、治療は成功しないということです。つまり、内服薬のみでは解決できない心理的な影響も大きいであろうということです。 しかし、禁煙治療を受けている患者さんは毎時毎日喫煙の誘惑に耐えることになりますが、医師からの管理・指導は毎時毎日というわけにはいきません。そこで医師から直接ではないにせよ、診療空白期間はアプリによりリアルタイムで指導・管理してもらうことで禁煙を成功させる確率を上げるというのが、先に紹介したアプリの目的です。
このアプリは、呼気一酸化炭素濃度を計測する機器と医師・患者のアプリで構成されています。患者さんが自分自身の気分や、喫煙衝動をアプリに入力すると、その入力に応じたアドバイスが提案されます。例えば、気分を変えるために「部屋の掃除をしましょう」というような提案です。また、チャット機能や、禁煙を促進するための教育プログラムが備わっています。さらに、呼気一酸化炭素濃度のデータは自動的にスマートフォンに入力されるため、数値の管理がしやすく、医師は診療の補助に、患者さんは客観的な数値を見て自制、管理ができるようになっているという仕様です。患者さんが入力した諸々のデータやプログラムは医師と共有することができ、医師の指導がより具体的になり、治療の質の向上が期待できます。
当院での禁煙治療用デジタル治療アプリの使用について
上に記したように禁煙治療には次のような困難が付きまとうことが分かっています。
・外来での禁煙治療プログラムを受けても、プログラムを継続できず途中で断念してしまう患者さんが多い
・プログラムを終了できたとしてもその後禁煙を継続するのが困難
・内服薬のみでは解決できない心理的な影響も大きいと考えられる
・診療空白期間はアプリによりリアルタイムで指導・管理してもらうことで禁煙を成功させる
これらの課題を解決するため、当院では、プログラムを途中で断念しないようオンライン診療も並行して利用できるようにすることで通院継続をしてもらいやすくしています。また、通常の禁煙プログラムは12週間のみで終了ですが、アプリの使用は6カ月可能であるため、プログラム終了後も禁煙の管理ができ、禁煙の継続をサポートできます。このように、当院ではオンライン診療やデジタル治療などのデジタルテクノロジーを利用することで患者さんの治療効果を高めています。当院の禁煙外来の詳細はこちらのページへ。